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October 08, 2006

KGB (新潮選書)

友人から借りた表記の本を読み終えた。読み始めてすぐに時代感覚が違うなと感じたが、原作は1982年、日本語訳もその翌年というまだ冷戦時代でKGBがアクティブに活躍していたころの本である(当時の組織図入りの解説付き)。

特に西ヨーロッパ諸国やアメリカの情報機関にいかにスパイを送り込んで浸透していたかが興味深い。例えばイギリスではMI-5やMI-6といった情報機関に浸透し、1981年には90名もの外交官や通商代表部のメンバーが国外追放になっている。西ドイツでもブラント首相の私設秘書の一人がKGBのスパイだったので、情報が筒抜けになっていたとのこと。それにしても国内外にこれだけ時間とお金を掛けて監視の目を光らせて、それに見合うだけの情報が得られたのだろうか。ホテルの部屋は盗聴器が付いていて当たり前、貿易商などの民間人を装ったエージェーントもごろごろ、チェコスロヴァキアなど東欧諸国のスパイも活用ととどまる所を知らない。この調子であらゆる官僚を維持するだけで国庫が空になってしまいそうだ。

特に興味深いエピソードに、天才ピアニストと賞賛されていたウラジーミル・フェルツマンの話がある。彼は「イスラエルに亡命できないか。」とある人に相談を持ちかけただけで、その2時間後には全てのレコード店に彼の演奏の入ったレコードを撤去するよう命令が出たとのこと。国際的に知名度のあるピアニストでも、国を裏切りそうな発言一つですぐその筋に密告され、結局1ヵ月後には全てのレコード、コンサートのポスターなどから彼の名前が消え、実質演奏家として生命の危機に瀕してしまった。(数年後に亡命したという。)

またニューヨーク駐在のチェコのカレル・ジシュカ外交官夫妻が、クリスマスに2人の子供を呼び寄せて亡命できないかと自宅で相談したことがKGBの知るところになり、程なくエージェントが奥さんを惨殺。それを発見した本人も逃亡した上で拳銃自殺をした例もある。可哀そうにこの子供達はその後どうなってしまったのだろうか。

ナチス統治下のハンガリーで10万人以上のユダヤ人を救ったとされるスウェーデン出身のラオル・ワレンバーグも、ブタペスト開放時に米ドル札を持っていたためにスパイの嫌疑を受けてソ連が逮捕。その後数十年にわたって極寒の地の収容所を行き来させられているという。(実際には数年後に獄死したとの説が強い。)

今は時代も変わってきているとは言うものの、この警察国家の名残はまだロシアを初め様々な国に残っているはずで、それを考えると背筋が寒くなりそうだ。それにしてもわずか20年ほど前には、まだこのような理不尽な巨大組織が、強大な権力とプレゼンスをもって活動していたということは驚きである。

PS. ここまで書いた後に、ロシアで反プーチンの記事を書き続けていた女性ジャーナリスト・アンナ・ポリトコフスカヤ氏が銃殺されたとのニュースを発見。KGBのDNAは今でもアクティブに活動しているのだ。

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Comments

おおっ、Email Addressが必須じゃなくなってましたね。素早い対応流石です。

おっしゃる通りで、これだけのスパイ・官僚をキープするだけで凄い金額ですよね。我々駐在員の比ではないんだろうなーと思い、ちょっと虚しくなってきました。。。

Posted by: ろびー | October 09, 2006 at 06:22 PM

思いがけずこの手の本を読む機会があって、オラニエ公としてはとても嬉しいです。

Posted by: オラニエ公 | October 09, 2006 at 10:07 PM

自分でちゃんと読んでいない本を無理矢理押し付けて、なのに読んでいただきありがとうございます(笑、オラニエ公のレポートを読んで、「おもしろそう」と思い、今一度ちゃんと読み直してみようと思う小百合でした...

Posted by: 小百合 | October 29, 2006 at 08:38 AM

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