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December 16, 2006

「緒方貞子 - 難民支援の現場から」

この本は「国連難民高等弁務官」として活躍し、国際的に高い評価を得ている緒方貞子さんについて、インタビュー記事を中心にその活躍ぶりや考えをまとめたものである。

まずこの「・・・弁務官」というのは「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)」のトップで、彼女は1990年代の約10年間その職務を全うした。UNHCRはその名の通り全世界に発生している「難民」の保護、母国への帰還や自立を支援する国連機関である。(詳しくはこちらのホームページを参照)

この1990年代というのは丁度冷戦による統制のたがが外れて、宗教や部族対立等を原因とする内戦が頻発して大量の難民が発生した難しい時期であった。ところがこのUNHCRは90年当時、2代前のトップがスキャンダルで辞任、先代も任期途中で退任し組織として弱っていた。ところが彼女の任期中にその活動は大幅に強化され、予算、職員数共に二倍近くにも増え、国連を代表する機関のひとつになったという。まさに同じ日本人として世界に誇るべき人材である。

彼女の活動の源泉は「怒り」だという。つまり不条理なことを目にしたり、あるべきことがそうならなかったりした場合に、それに対する感情をエネルギーに変えるという。またこの本を通じて感じたのが彼女の強い「責任感」である。90年代に難民が大量に発生した場所は、イラク(クルド難民)、アフガニスタン、旧ユーゴスラヴィア、ルワンダなど数知れないが、彼女はその現場まで防弾チョッキを着てでも視察や指導に行っているのだ。組織のトップとしてフカフカのソファに座っていることも可能だっただろうが、そこを敢えて銃撃や地雷、伝染病などの危険を承知の上で行動に出る。これはまさに責任を全うしようとするものでなくては出来ないことだ。

更には現場での必要性から今までの「枠」に捕らわれない新しいタイプの支援策をギリギリの決断の中から打ち出して行く。前例にない活動をして更にその責任は自分が負うという姿勢は、「現場主義」という彼女のモットーと合わせて企業のマネージメントの手本にもなる

オラニエ公は90年代に難民が大量発生したボスニア=ヘルツェゴヴィナのモスタルという街に行ったことがある。そこはイスラム教とカトリック、セルビア正教の3者が泥沼の内戦を繰り広げたところで、昨年行ったときにも銃痕の残る建物が立ち並び、表面的には平和そうだったが、実際にはまだ対立感情が消えないという。UNHCRはここで発生した難民の保護や帰還だけでなく、今後の共生に向けてこの3者が共同して経済的に自立できるようなプログラムを走らせている。これは「ボスニア女性イニシアチブ」といって、戦争中に家族を失ったそれぞれの女性たちが分担してお土産の人形を作ろうというプロジェクトで、UNHCRは人形作りに必要な毛糸やミシンを支援していると言う。こういうソフト系の発想も彼女ならではの成せるわざであろう。

いまここでは平和な生活が出来ているが、難民をはじめUNHCRの支援対象になる人達は全世界で1,900万人以上にも達する。また「難民」というとアフリカやアジアをまず想像するが、実は身近なヨーロッパだけでも400万人以上もいる(数字はUNHCRのHPより)。緒方貞子という日本を代表する女性の信条とそれに基づいた活躍を知るだけでなく、まだ平和とは決して言えない世界の実情を理解する上でも役立つ一冊であった。

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