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March 04, 2007

「オーケストラの職人たち」岩城宏之著

岩城宏之といえば日本を代表する指揮者として欧米でも有名なマエストロ。NHK交響楽団の終身正指揮者という肩書きを持ち、04年と05年の大晦日にはベートーヴェンの交響曲全9曲を一人で振り抜いて更に有名になった。残念ながら一昨年亡くなられたが、そんな人が「週刊金曜日」というちょっと政治色ありげで怪しげな雑誌に連載していたエッセイ集(文春文庫)である。原題は「裏方のおけいこ」。全く政治の色は無く、マエストロ自身の純粋な好奇心からの取材で得られた、オーケストラの裏方で活躍する諸専門家の紹介である。

・楽器運搬業者(ハープ、ピアノ)
・調律師
・写譜師
・オーケストラ随行医師
・コンサート・ビラ配布業者

こんな裏方さんたちが登場するのだが、著者自身が直接取材に回っているのがポイント。取材に来られた方もさぞかしビックリしたことだろうが、この旺盛な好奇心と現場主義が、常に新しい芸術を生み出し続ける原動力なのだろう。

例えば「田中陸運」という街の小さな運送業者は、戦後間もなく高名なドイツ人ハープ奏者が偶々近くに住んでいて、その楽器運搬をよく頼まれていた。それを契機に様々な楽器運搬のノウハウを蓄えて、現在は日本フィルハーモニー専属の業者兼スタッフになっている。当時は屋根も無いオート三輪でハープを直接クッションの上に載せて運んでいたというから、今からは隔世の感がある。著者は取材のためこの運送会社で一日アルバイトとして働き、知り合いを含む何軒ものお客様を回ったという。

普段コンサート会場で何気なく貰っているコンサート・チラシの束も、実はある会社が配布代行業ビジネスとして始めたという。一回に100枚以上のチラシを束ねてビニール袋に入れて会場で配るという一見単純そうなことでも、機械化された袋詰めの作業や会場であまり音を立てないように開発されたビニール袋、あるいはチラシを配布するタイミングと場所などかなりのノウハウが詰まっている。終演後にはホール内に捨てられたチラシをしっかりと回収するそうである。しかもこのビジネスは関東のみだというのが面白い。関西や名古屋では他のホールの宣伝になるということでコンサート会場が配布を許可しないそうである。

このような興味深いネタは、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも紹介できそうだ。この本では、実際にこの裏方さんたちに最大限お世話になっている大指揮者自ら本音で綴っていることが、益々臨場感というかリアルさを加えていて興味深い。「こんなこと言っても良いの?」という感じの話もあり、クラシック・ファンには読んでおいて損はない本である。

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